Fleurs par Yoko Negi | Flat magazine
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新しい花との出会い

根木 葉子

​フラワースタイリスト

約一年前、15年ほど過ごしてきたフランスを離れ、オランダはロッテルダムにもう一つの拠点をおき、新しい生活をスタートさせた。この一年の間は、パリとロッテルダム、故郷の東京を行ったり来たりの日々。長く花仕事やプライベートの時間を共にしてきた仲間と離れ、自由に気に入りの場所を行き来する、その各所で新しい花との出会いを持つことがこれからの私の楽しみだった。その矢先に訪れた外出制限や国境封鎖。しばらくロッテルダムの自宅に閉じ込められ、足止めを余儀なくされた。各都市でのプロジェクトはキャンセル続き、呆然とするしかなかった。

 

 が、ロックダウンの間に色々見えてくることがあった。時間を持て余す、というよりは現在やこれからの自分自身と向き合う時間。そして、私一番の相棒である花や植物達。ちょうど春という事もあり、自宅のベランダの植物と毎朝の挨拶、生ける花を愛でる時間。そんな時間が増えていった。

 やはり植物のエネルギーはすごい。人間がパンデミックの恐ろしさにうろたえている間も、種子から芽を出し、太陽に向かってどんどん鮮やかな緑色を増していく。逞しく。その一方、行き先を失った花農家で生産された花が大量に処分されるニュースを目の当たりにし、歯痒いというのか、悔しい気持ちで過ごす日がしばらく続いた。

この花や植物の美しさ、力強さを、一年で一番美しい季節を愛でたい。そう望んでいる人は沢山いるのではないか。何かそれを叶える方法はないかと思い巡らせているところ、営業をストップせざるを得なかった美容師の友人から、その期間彼のサロンを使って何かやってみないかというオファーをもらう。

 「Weekend flower pop-up store」。店で接客しずらい状況のため、オンラインでの注文のあと、作ったブーケを持ち帰ってもらうというもの。引き取りのみの来店なので、店の滞在時間を短くできるし、人と人との距離もおく工夫をしてのブティックオープン。ソフトロックダウンのオランダだったから可能だった方法。

 

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Hair Studio Picnic,  Photo by Shinji Otani

 正直、初めは花農家の花をできるだけ無駄にしないために、自分自身や周りのみんなが楽しめるような機会にしようという気持ちだったが、思いの外反響が大きく、仕入れた花は全て嫁ぎ先を決めて、主の笑顔と共に旅立っていった。私が提案する花コーディネートを求めてやってきてくれるロッテルダム市内の人達と、短い時間ではあるが、花の美しさや、それが私たちに与えてくれるエネルギーについて語り合った。

 店で真正面、クライアントと花の素晴らしさや自分の世界観を共有できる素晴らしさよ!商業の世界においてもオンラインやSNSがなくてはならない存在になった今も、私にとってはこの瞬間がかけがえのない時間だ。私の原動力の源であり、彼らとの会話は私にたくさんのインスピレーションを与えてくれる。そして、不安や怒りが多いこの現代社会の中ではあるが、花が人々にもたらす幸福感や心地よさは益々大きくなっているのではないか。日本の伝統的な考え方でもある、家の中に自然の一部を感じながら生きる花生けの大切さ。そして、人と人の生のコミュニケーションの価値は、私達にとってかけがえのないものだろう。それを、今回改めてはっきりと感じた。

 

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 花の向こう側にはいつも誰かが居てくれる。私にとって、花は人々とのコミュニケーションの手段なのである。私自身がこれからどうやって花の魅力を伝え続けていくかは、模索中ではあるが、今後形を変えても、何かを表現したり、提案したり、必要とされる限り自分なりに道を見つけて行こうと思う。毎日の植物との会話は絶やすことなく。

 たくさんの事に気付かせてくれてありがとう。

 

 この数ヶ月の間にそう思えた事、これが小さな希望でもあり、私のまた一つ大きな、新しい花との出会いだった。

​ロッテルダムにて。

 

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