
声を出すということ
太田美帆
音楽家
みんな
もっと声を出してしまえば良いのにと思う。
気持ち良かったら声が出る。
苦しい時も声が出る。
これぞ動物の本能。
カラオケでも鼻歌でも、
歌うことは人をご機嫌にさせる。
他人の力を借りるでもなく、
自分で自分を癒すことが出来る。
一方、
声を出すことは恥ずかしい。
目立つし、人と違っていたら困る。
でも「発声」には
自分で自分を治癒する=自然治癒力が備わっている。
肺の動きを活発にし、
空気中から清浄な気を取り込むことは、
中医学の分野でも「宣発と粛降(せんぱつとしゅくこう)」を主る
重要な働きとされているらしい。
大切なのは、上手に歌うことではない。
”声を出す”という”行為”に臨むこと。
音痴だとかは二の次だ。
「私には向いてない。聴いているのが好き」
その気持ちも良く分かる。
例えば、ヨガや筋トレと同列だと想像するとどうだろう。
自分で自分を良くする、セルフトリートメントといえないだろうか。

ここ数年「声のWS」なるものをやっている。
大概、何をするWSなのか分からないと言われるし、
私もうまく説明出来ないので心苦しいのだが、
1曲を完成させるというより、
小さな声から大きな声、低い音から高い音まで、
みんなで声を出しまくり、ハーモニーを作っていく。
恐る恐るトライしてくれた人は、
爽快な笑顔で「また来ます!」
来た時より数倍明るい笑顔で帰って行く。
上手に歌えたことへの満足感ではない。
自分をさらけ出せた充足感。
調和する喜びだ。
歌唱は身体を緊張させ、弛緩もさせる。
普段使わない筋肉を使うので
自律神経を整える作用もある。

溜まっていく感情は、
吐き出さなければ
気付かぬうちに心を蝕む。
子供のように歌えたら、
大人はもっと笑っているかもしれない。
私達の想像以上の力を持っている身体。
引き出すのは「自覚」
誰かに何かを施すより先に、
大事なのは己の調律だ。
声を出そう
そして自分を愛そう。
新しい一歩は、そこから始まるのだ。
東京にて
photo by 表萌々花