Concone
沙里
祈りのかほりを奏でる人
まず、こうして生活をできているのも食品や物流、医療などのライフラインに携わってくれている方々のお陰でして、感謝に絶えません。地球規模で大きな変化を迎えている今、世界はどうなっていくのだろう、人間はどうなっていくのだろう。自分は何ができるのだろうと、問いかけに向き合って日々生活しています。オンラインでの新生活が叫ばれる中で、分断された五感は本当にそのままで良いのか、地球上で人間だけがまた1つ他の生物と異なる生活様式に変化していくことは正しいのか。想像力を働かせながら、五感を研ぎ澄ませて、時流のメッセージを受け取る、そんな気持ちでいます。
目に見えないものの不安や恐怖が蔓延する一方で、香りは、目に見えないものがもたらす喜びや感動にも、より一層気づかせてくれているような気がします。植物は緑を深めて、先週は蕾だった柑橘の花も、今日は開花し辺り一面を充満させて、そこには一種の結界さえ感じました。自然の巡りを愛おしく感じます。
さて、今回はこのような状況になって最初に生まれた香りについて、綴りたいと思います。
自粛規制が出る直前、ある一つの調香アトリエも延期となりました。予定していた当日は、お会いする予定だった方々の無事を祈り、そのクラスで毎回使用させてもらう音楽を自宅でゆっくりと聴くことに。
すずらんのジャケットが美しい、太田美帆氏の声と横山起朗氏によるピアノのシンプルな構成。
私の場合は、聞こえてくる音の印象や和音と、それぞれ香りや素材がもつ音色(音階やリズム)を重ねていくように調香していきます。調香している間は、私自身もその植物それぞれの放つ力に癒され、守られているような、天にお届けしているような感覚です。
今回の香りはインスピレーションをいただいた太田美帆さんの歌声のイメージから、conconeと名付けました
「コンコーネは19世期イタリアで作られた声楽家のための教則集」といった意味なのだそうです
Perfume
Inspired by concone https://otamiho.bandcamp.com/album/concone
Muguet 3
幸せの再来はという意味のあるすずらん。conconeの音色が隣の家から聞こえてきたらその1日はきっと穏やかな予感を
風によってやってくるような、すずらんの甘く爽やかな花香と合わせました。
Eucalyptus 1
透き通る歌声のイメージ。また、聴く人の心もスーッと溶けて、余分な力の抜けていく感覚。第5チャクラ、ぱかん!笑
抗ウイルス作用も高く、勇気を与えるパワーをもつユーカリの両面性を重ねました。
Frankincense 2
旧約聖書にも登場する乳香の香りは、ひとことでいうと、浄化。目には見えないけれど、透明なベールで包まれているような歌声のイメージ。
Lime 3
光そのもの。ただぽかぽかあたたかいのでなく、様々なことを乗り越えてきた強さや闇の上に輝く一途の光。
Pink grapefruit. 1.5
淡い記憶、ピアノの音色。苦みが慈しみに変わる瞬間。
Camomile German 1
カモミールはヨーロッパで最も歴史のある民間薬と称されることもあるほど、古くから薬草として人々に用いられてきたハーブの一つ。インクのような濃い青色が特徴のカモミールジャーマンは、芯の美しさを物語る妖精のよう。また、彼女の催する声のワークショップは、瞑想のようで薬効がある。
Gettou 1
ショウガ科のシャープな印象の中に、石垣島で満月採集した月桃は神秘を感じさせてくれる。
Fir 1
シベリアモミの香り。彼女を想うといつもなぜかこの香りがする。新しく何かを始める時に心強い味方となる香り。軽やかなピアノの音のイメージも重なる。
Patchouli 1.1
パチョリ 。温かみのある墨の香り。全てのハーモニーを見守りながら香りを際立たせるコントラバスやチェロのベースのような役割。土があるから、根は根をはれる。新芽が生まれる。花が咲く。その尊い循環に香りを重ねる。
Benzoin 0.9
安息香の甘い香が、緊張を解いて幸福感を導く香り。この香りは、樹脂。樹木が傷ついた場所を治癒させるための樹液が固まったもの。自己治癒力の賜物とも言える、時の熟成をまつ喜び、力を添えました。
Jasmin water. 少々
調香は表現でありながら、決して特別でない日常のお守りや祈りを込めた料理のようなものでもあると感じています。感じる人の心によって変化する、余白のある香りになるといいなと思っています。
埼玉・三重にて
Photo by Akihiro Yamaguchi