Pain au blé ancien par Shinya Inagaki
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海と大地のコミュニケーション

​稲垣 信也

​パン職人

天然酵母の話

 

 しんやさんのパン作り人生は天然酵母との出会いから始まる。

天然酵母に出会ったのは日本でのこと。人参、りんご、玄米でできた天然酵母を使ったパンに出会い興味を持ったものの企業秘密であるために作りかたを教えてもらうことができなかった。その後、今度はフランスで「本場のパン作りを学ぼう!」とノルマンディのパン屋さんで働くことに。ノルマンディのパン屋で修行をしながら人参を干し、りんごや玄米を混ぜて天然酵母ができないか独自に実験を繰り返していたところ、なんと天然酵母ができてしまった。これがShinya Painの始まりになった。

 この後は天然酵母を継ぎ足しながら旅行にも持っていき、生きている天然酵母を守りながらパリのパン屋さんで働くことに。そこで社員としてパンやパティスリーを作りながら休日にお店の窯を借りて自分のパンを作る日々。

 そんな中で今度は古代麦と出会うことになる。

 

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古代麦との出会い

 

 古代麦との出会いはパリのパン屋で働いている時のある違和感から始まる。

そのパン屋はパリに数店舗あるチェーンのような工業化されたパン屋さん。安定して美味しいパンが食べれることで評判のパン屋だが、どの店舗でも同じ味のパンを出せるように、いわば誰がつくっても同じ味になるようにと、小麦メーカーが作ったレシピでパン作りをしていた。小麦も大量に生産され、どこの誰が作った小麦なのか、誰も全く気にしていない。そんなパン作りに大きな違和感を感じ、麦の生産者との出会いを求め始める。

​顔が見える小麦生産者を求めた結果、古代麦に辿り着いた。

しんやさんはパン作りを「コミュニケーションだ」と表現する。

生産者が丁寧に作った小麦を買い、天然酵母と塩というシンプルな材料と合わせてパンを作る。日々の湿気や気温に合わせて細かく温度調整をしながら毎日パン作りと向き合い、パンを作った本人がそのパンを食べる人まで届ける。コミュニケーションである。

 

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コミュニケーションと塩の話

 

 Shinya Painで開店前のパン作りの時間にお店にお邪魔するとお店をのぞいておしゃべりしていく人の足が絶えない。

「新しいパン屋さんなの?」

「どんなパンがあるの?」

「あのパン後で買いに来るから取っておいてね」

 しんやさんがお店を構えるモンマルトルは村のような雰囲気がある。お店と同じ通りに住んでいるしんやさんはモンマルトルに知り合いも多く、皆村の新しいパン屋さんを歓迎しているようだ。

 

 しんやさんは元同僚のパン職人が使っていた塩を今も使っている。海から採れたその塩はなんとえびの香りがするのである。初めて香りをかいだ時、しんやさんはまるで海の生態系が目の前に現れるようにしんやさんは感じたそうだ。少しピンクがかったエビ色の塩は海のミネラルと旨味をたっぷり吸った、まさに海からの贈り物である。

パンは大地と海の融合なのだとしんやさんは言う。

 

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「炊きたてのご飯のお米が立っているように焼きたてのパンは小麦が立っている」と言いながら焼きたてのパンの断面を見せてくれた

 修行時代にノルマンディで初めて「本物のパン」に出会い、ショックを受けたしんやさん。

波乱万丈なパン人生を歩んできたしんやさんだが、この新しいパン屋の開店はもちろんまだゴールではない。

新型コロナウイルスの流行による外出禁止期間にはお客さんたちが良いものを食べることに関心を持ち始めていると感じたそうだ。良いものを食べる、というのは、作っている人の顔が見える、旬の季節の美味しい食べ物。それを食べてこそ体も健康で自分を大切にできる。

これからは自分のパンのために麦の生産者と麦作りから一緒にしていきたいと語る。今はパリでお店を構えているが、いつかは麦畑のあるところで麦を作り、パンを作るということにも興味を持っている。

SHINYA PAIN

​パリにて

 

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